就活に本腰を入れたのは卒業してからです
20代なかばの若さ、しかもホワンとした雰囲気にもかかわらず、オーナーとしてカフェを切り盛りする椿さん。
「いらっしゃいませ!」とにこやかに迎えていただき、オシャレな店内でインタビュースタートです。
その若さで、どうやったらカフェのオーナーになれるんでしょうか? これまでの経緯を聴かせてください。
ええっと、どこまでさかのぼりましょうか。大学からでいいですか?
私は大学で「造形表現学科」に籍を置いていました。ひらたく言えば美術なんですが、「油絵」とか「工芸」とか専門的に絞るのではなく、いろんなジャンルを総合的に学びました。
ということは、もともとはアーティスト志望だったんですか?
いえ、そういうわけでもないんです。それじゃあ、もっとさかのぼって高校時代の話をしますね。高校生のころは、実は福祉系にいくつもりでした。
でも高校3年の夏、勉強中にふと気づいてしまったんです。「私、誰かに尽くし続けることなんてできない! そんなに心優しい人間ではない」と(笑)
高校3年の夏に! そのタイミングで大変なことに気づいちゃいましたね(笑)
はい。そこで「もっと他にやりたいことがあるんじゃないか」と考え、「そういえば私、子供のころから“つくる”ことが好きだったなあ」と思い出したんです。
福祉系の仕事を目指したのは、なんとなく「自分に向いていそう」と思い込んでいたのと、そうすることで「周りから評価してもらえる」「誉めてもらえる」と考えていたんでしょうね。
きっと、幼くて視野の狭い自分なりに考えて、ちょうどいい落としどころだったんです。
それにしても、突然の進路変更ですよね。ご両親は反対しなかった?
両親には昔から自分の進路を相談しない子だったので、このときも勝手に決めちゃいました。
たしかに最初はビックリしてましたが、私が昔から絵を描いていることなどは知っていたので、特に反対されなかったです。
学生生活はどうでしたか?
楽しかったです。大学4年の夏には、就活もせず1ヶ月間の牧場での住み込みバイトを決行したりして(笑)
当時は「今しかやれない!」と思っていたので、迷いは無かったです。牧場のバイトは、人生経験としてどうしてもやりたかったんです。
秋からは卒業制作に追われていたので、就活に本腰を入れたのは卒業してからです。
えーっ、それでよく就職できましたね(笑)
本当ですよね。我ながらのんきでした。実は就活に対しての必死感もいまひとつで、牧場のバイトと同じで「経験としてやってみるか!」って感じでした。
もちろん実際に始めてみたらとても大変だったし、一社受けるたびにその会社に恋するような気分になっていたので、選考に漏れると悲しかったです。
人並みに苦労して、4月中になんとか小さなWeb制作会社に就職できました。マンションの一室にある、アットホームな雰囲気の会社です。少人数だけどベタベタした人間関係は無くて、いわゆるブラックな待遇でもなく良い職場でした。
ただ、私のような素人をじっくり育てる余裕は無いので、仕事に必要な技術は独学で覚えるしかなかったんです。
苦戦している私を見かねた社長が「外部のスクールに行っていいよ」と言ってくれまして、いくつかの講座を受けさせてもらうことになりました。
そのひとつが原宿の「ロクナナワークショップ」だったんですが、ここである人物と運命的な出会いを果たしまして(笑)。
その出会いが、現在につながる直接のきっかけになります。
インタビュー/編集 千貫りこ
Photography by Madoka Shibazaki