明確なビジョンは無し。あるのは「ワインにかかわりたい!」という思いだけ
お会いしたのは、まだ残暑が残る9月の初め。さまざまな媒体からインタビューを受ける機会の多い須藤さんを前に、ちょっとドキドキしながらインタビュースタートです!
今のお仕事を始められた経緯から聞かせてください。そもそも、ワインに興味を持ったのはいつごろなんですか?
興味を持ったのは高校生のころですね。
大学生のときにはもう、「ワイン関係の仕事に就く」と決めてました。
えっ、ずいぶん早いですね。未成年でワインに興味ですか。……きっかけを聞いても大丈夫ですか?
もちろん! 聞いて聞いて(笑)
私が高校生のころ、父が仕事の関係でパリに1年ほど住んでいたんです。それで夏休みの頃間、1ヶ月以上かけて家族でパリに滞在したの。ソフィー・マルソーさんとか、らせん階段のアパルトマンとか、日本の女の子たちがパリの文化に憧れている時期だったのもあって、私もすっかりパリの虜になりました。
でね、あちらはお水の値段が高いんですよ。テーブルワインの方が安いの。だからパリの街なかで親御さんと一緒に食事している14,5歳くらいの子が、ワインをお水で割って飲んでいる光景が珍しくないんです。
そんな環境なので、父も「家でならいいよ」と許してくれて、姉と私でワインをちょっとだけ味見させてもらったんです。一口飲んで「こんなにおいしいものが世の中にあるのか!」とビックリして。目覚めてしまいました。
ワインって、色で分けるでしょう?
白、赤、ロゼ。でも、「白」とひとくちに言っても、透明感があるものや黄金色のもの。「赤」ならルビー、ガーネット。香りも味もおどろくほどたくさんのバリエーションがあるんです。
「この奥深さを勉強したい」と思ったのが、ワインに興味を持ったきっかけです。
大学では仏文学を学び、卒業後はワインで有名なメルシャン株式会社に入社しました。
なるほど、そんな経緯があったんですね。そして、ここまでは絵に描いたように順調ですね。
ところが!
メルシャンでは期待に反して秘書室配属になってしまったんです。まさかの社長秘書。
我ながら子どもっぽいんだけど、会社に入ったらワイン事業部で働けると信じ込んでいたので、入社当初は悲しかったですね。
ただ、ワインを飲む機会が増えたのは幸せでした。新商品が出れば業務時間内にテイスティングできちゃう。だって、社員のデスクにワインボトルが置いてあるのよ(笑)
もちろん飲みながら仕事してるわけじゃないけど、メルシャンに入社してからはワインがますます身近な存在になりました。
須藤さんは現在独立されていますが、メルシャンを辞めたあとに独立されたんですか?
いえ、一度転職してます。メルシャンでの数年はとても充実していたのですが、外の世界も見てみたいと思って。もっと社会勉強したくなったんです。転職先は健康食品を取り扱っている会社で、そこでは営業企画部の社員として仕事をしました。独立は、2社目を辞めたあとですね。
あれ? 2社目はワイン関係じゃないんですね。その時期はあんまりワインに固執してなかったのですか?
当時……約20年前は「ワインの仕事」の選択肢がほとんど無かったの。
そもそもワインを飲む人が少なかったんです。日本ワイナリー協会のサイトによると、いま日本で販売されているお酒のうちワインが占める割合はおよそ3パーセントなんですが、当時は1パーセント程度。
マーケットが小さいぶん働き口も少なくて、女の子が数年かじったくらいじゃ仕事にならない状況でした。
もちろんワインはずっと大好きだったので、ワインスクールの「アカデミー・デュ・ヴァン」に通ったりして、趣味として楽しんでました。スクールの仲間とおいしいワインを飲みに行ってたし、そういう意味では不満は無かったですね。
では、独立を意識したきっかけは?
(財)日本ソムリエ協会のワイン・アドバイザーの資格を取得していたことと、多少「社会勉強できた」という実感からでしょうか。ワイン・アドバイザーは運転免許証程度の身分証明なんですけど、「今度こそ、自分のスタイルでワインの仕事をしてみたい」という欲が出てきたんですね。
そうそう、独立直後には、当時はまだ珍しかったホームページなんかも作りましたよ。
トップページの字が左右に動いてたり「あなたは○人目のお客さまです」って表示されちゃったり、いま思うとオソロシイ内容なんだけど(笑)、それでもホームページ経由で仕事の依頼が来ましたね。
女性がフリーランスで何かやってること自体、当時は珍しかったと思います。
Webサイトだけで営業されてたんですか?
いえ、さすがにそういうわけにはいきませんでした。
古巣のメルシャンさんから紹介していただいたお仕事もたくさんあります。メルシャンに入社したときは社長秘書になってしまったことにガッカリしたけど、そのおかげで独立直後から仕事をもらえたし、それが現在にもつながってます。今にして思えば本当にラッキーでした。
独立後のお仕事の内容は、雑誌でワインバー特集が組まれたときに取材を受けたり、大手酒造メーカーの販促用冊子を作るお手伝いをしたり。一番多かったのはセミナー講師かな。生命保険会社が主催する顧客向けのワインセミナーなどで話させていただきました。
独立前から、セミナー講師やワインのアドバイザー的なお仕事をしようと考えてらしたんですか?
ううん、明確なビジョンは無かったの。あるのは「ワインにかかわりたい!」っていう思いだけ(笑)
でも実際に色々なお仕事をさせていただく中で、講師のお仕事には特にやりがいを感じました。「ワインがある生活はこんなに楽しいんですよ」ということを、直接伝えられるのが嬉しかったですね。
その後、独立して7、8年経ったころにちょっとした転機が訪れました。
ちょうど子どもを産んだ時期と重なるんですが、「カタチに残る仕事がしたい」という気持ちが強くなってきて。具体的に言うと、本を書きたくなったの。そしたらちょうどそのタイミングで、フリーの編集者さんから「本を書いてみませんか?」と声をかけていただきました。
実はその方、私が10年くらい続けていたワインセミナーの生徒さんだったんです。自分の仕事をずっと見てきてくれた方に見込んでもらえたのは、とても嬉しかったです。
わあ、ステキですね! とはいえ、初めての子育てと初の執筆。両立するのは大変だったのでは?
子どもが2歳くらいだったので、確かに大変でしたね。
この本は、かなり手がかかってるの。文章を書くだけじゃなく、細かいところまで参加してるんです。本の中で使われている写真も、私の自宅で撮ったものがいくつかあるのよ。私物も提供しました(笑)
でも、大変だったけど楽しかったですよー。制作期間は思いきり没頭しました!
その後も、ありがたいことに年に1冊のペースで本を書かせていただいてます。
インタビュー/編集 千貫りこ
Photography by Yoko Daikyu